ここち

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月影物語

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序 影は嗤う

 月は早くに西へ沈み、空には小さな星が瞬く。静かな神社の境内に、一組の男女の影があった。
「機は熟した。今こそ一族を再興し、世に我らの力を示す時だ。」
 男が低く抑えた声で囁きながら空を仰ぐ。その声に答えるように木々が揺れ、石造りの階段の脇に置かれた灯篭からも、蝋燭の明かりがゆらゆらと漏れた。闇に包まれ、灯篭に背を向けた二人の顔は判然としない。
「抜かりはないな?」
 男は振り向くことなく背後へ立つ女に問い掛けた。
「全て予定通りに。」
 僅かに頭を下げ、女は凛とした声で答える。
「必ず力を手に入れなければならぬ。信じているぞ、かぐや姫。」
 振り向いた男の口元は灯篭の明かりに照らされ、微かに笑った。
「必ずや、本物のかぐやの目覚める前に……。」
 風に揺れる灯篭の明かりが女の黒髪を舐める。静かな境内を生温かい風が抜け、男女はいつの間にか姿を消した。

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