ここち

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突撃! Glasses

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第六話 白黒付けろ! ―― (4)

 優里の後を、鏑木が電柱に身を隠しながらつけて行く。時々ピロリンと間抜けな音が出るのは、鏑木が携帯カメラで優里の姿を盗撮していることに他ならない。爽やかな朝、人通りもそう多くない閑静な住宅街で、シャッター音を派手に響かせながら盗撮を繰り返している鏑木は、明らかに尾行能力が低い。
 鏑木の後をつけるグラッシーズの面々は、一定以上の距離を保ちつつ、それぞれ分散して、アヤの指令に基づき、二人を追いかけていた。優里の靴には発信機が仕掛けられているから、多少距離を取っても見失う可能性はない。優里の動きが司令室で監視されていることはもちろん、眼鏡に追加された新機能で左のレンズにGPSマップが表示されるから、尾行は容易だ。
「松原優里、コンビニ前を通過!」
「鏑木、盗撮しつつ、松原優里に急接近しています!」
「鏑木、携帯をしまいました。確保しますか!?」
 眼鏡の通信機能を用いて、それぞれの観察状況が次々と飛び交う。当初は、鏑木以上に下手くそだった尾行も、経験を積むにつれて様になって来た。正義の味方らしくはないが、スパイとしてなら十分にやっていけるレベルだ。難点は、報告のたびに、興奮した面々がやたら大きな声を上げてしまうことだろうか。
 孝志は通信機のボリュームつまみを捻りつつ、耳を劈くような声を遠ざけた。
「距離を縮めつつ、もう少し様子を見てくれ。」
 静かに通信機で指示を出しつつ、孝志は鏑木との距離を詰めて行く。鏑木が足早に優里に迫る。孝志も足早に鏑木を追いかける。既に進行方向へ回っているメガネイエローが出っ張ったお腹を電柱の陰からはみ出させている。更に先の電柱からはみ出しているアフロはメガネブルーに違いない。
 包囲網は完全だった。鏑木が何かしようとしている。現行犯逮捕のチャンスは近い。グラッシーズの全員がそう確信していた。
 孝志は、できることなら今すぐ鏑木に声を掛け、これ以上優里に近付かないよう命じたかったが、アヤがそれを認めなかった。
「現行犯で捕まえるのだ。ぎりぎりのピンチに登場してこそヒーローだからな! 危機一髪で救わねばならん。」
 アヤの美学に文句をつけることもできず、孝志はもどかしい思いを抱えながら鏑木と優里を追い続けている。
 孝志がすぐに対応できる状況を用意して、固唾を飲んで二人の様子を伺っていた時、突然、優里が走り出した。駅前の大通りへ続く道を逸れ、細い脇道へと入って行ってしまう。
「しまった!」
 鏑木が優里を追いかける姿を見るや否や、孝志は危機を察した。下手くそな尾行を続けている鏑木に気付いた優里が――もしかしたら、鏑木ではなくアフロやコスプレの変人集団に気付いたからかもしれないが――逃げようと思って脇道に入り込んだのだろうが、人目に付きにくい道は入り込んだら、ストーカー男の思う壺だ。
「博士! 松原さんと鏑木が脇道に!」
 通信機に向かって叫びつつ、孝志は二人を追いかけた。よりにもよって、優里が入り込んだのは狭い道が縦横無尽に走る迷子の必須ポイントだ。角を曲がった時には、優里と鏑木の姿は既に見えない。左目のマップでは現在地のすぐ近くで赤い点が点滅していて、優里の位置を示し続けているが、細かい通りがはっきりしない。
「どっちだ!?」
 左右に視線を走らせつつ、真っ直ぐ駆けるが、二人の姿は見当たらなかった。グラッシーズの他のメンバーも孝志の元へ駆け寄り、きょろきょろと辺りを見回す。全員に不安の表情が現れていた。
「案ずるな。松原優里の位置はこちらで把握している。眼鏡のマップを拡大するぞ。」
 アヤの頼もしい声と共に、左目のマップが拡大表示され、右手の方向で赤い点が素早く点滅する。細かい通りもはっきり表示され、GPSマップの高性能ぶりはさすがアヤだ。
 孝志はほっと安堵の息を漏らし、すぐさま移動する赤い点の進路を予測して駆け出した。
「行け、メガネレッド! 他のメンバーは鏑木を四方から取り囲んでメガネレッドをサポートするのだ!」
 通信機から興奮したアヤの声が響く。孝志は最短距離で優里の元へ向かった。
 ――松原さんを助けるんだ!
 心臓が高鳴るのは単に全力疾走しているからなのか、それとも優里に対する秘めた想いのせいなのか、あるいはもしかしたらこれが正義のヒーローとしての熱意なのかもしれない。
 不意に赤く点滅する点が動きを止めた。鏑木が優里を捉えたのかもしれない。孝志は勢いよく角を曲がり、叫んだ。
「松原さん!」
 開けた視界の先では、鏑木が優里の手を掴んで喚いている。優里が嫌がっていることは確認するまでもない。
「松原さんから離れろぉ!」
 反射的に飛び出したのは、大昔にどこかで見たような気がする正義の味方の必殺キックで、孝志の足は見事に鏑木の腹部を蹴り飛ばしていた。優里から引き離された鏑木は飛び上がるように後方へ飛ばされ、背中からアスファルトに不時着した。
「大丈夫?」
 すぐさま振り向き、孝志は優里に問う。優里が唖然とした表情で自分を見つめ返していることに気付いて、孝志はやっと我に返った。
「……。」
 続ける言葉がない。一体どうして自分はこうも無鉄砲に飛び出してしまったのだろうと後悔する。優里がストーカー男に手を掴まれて嫌がっていたことは間違いないし、無事に優里を助けられたことはめでたいのだが、いきなり飛び出して来てストーカー男とは言え、明確に暴力を振るっていたわけでもない人間を思い切り蹴り飛ばしたのは少々常識に反している。手を振り払って、何をしているんだと問い質すだけで十分だったのではないだろうか。
 孝志は優里の視線が自分の背後へ移ったことに気付き、気まずくなりながらもそっと後ろを振り返った。鏑木は気を失っているのかアスファルトに倒れたままだ。
「他の奴らはまだ出て行くんじゃないぞ。」
 通信機から他のメンバーへ指示を出すアヤの声が聞こえてくる。変人集団が現れないことは孝志にとっても有難い話だったが、それは同時に助け舟はないということを意味している。
 気まずい沈黙が漂っていた。このまま鏑木を連れて何事もなかったかのように逃げ出したいが、既にそのタイミングは失している。しかも、いくら鏑木がひょろりとした弱々しい男でも、男を一人抱えて颯爽と退場することができるほど孝志は体力に自信がなかった。引きずっていくのも格好が悪い。
「柳瀬……孝志さんでしたよね?」
 ふいに名前を呼ばれ、孝志はびくりと肩を振るわせた。
「え?」
 引きつった表情で、優里を見る。眼鏡を掛けた状態で優里に名乗った記憶はない。眼鏡を掛けない状態でも、優里に名乗ったことはない。一方的に片思いを続けていただけで、話したことだってないのだ。
 もしや、メガネピンクやメガネグリーン辺りから情報が漏れているのだろうか。いや、眼鏡戦隊グラッシーズは、実際がどうあれ、アヤの意思では隠密行動が基本だ。正体を明かすのは最後の最後というのがヒーローものの公式だと言うのがその理由である。うっかりメガネピンクが口を滑らせた可能性は否定できないが、メガネピンクだってそもそも孝志の本名など知りはしないはずなのだ。
「前にも、助けてくれたことありましたよね?」
 孝志が必死に頭を回転させながら焦っていると、優里はにこりと微笑んだ。
「へ?」
「渋谷駅の近くで、ナンパされて困ってた時に助けてくれたのも柳瀬さんでしょう?」
 優里の言葉で、孝志はメガネレッドとしての最初の活動、ナンパ男のメガネブルーを確保した時のことを思い出した。同時に、全身を熱が駆け巡る。あの時はアヤと一緒に今以上に恥ずかしいことをしでかしたのだ。それを優里がはっきりと覚えていて、本名までばれているとなればこの先の人生に光はない。優里の脳内には柳瀬孝志という名の赤縁眼鏡の変人がいるという情報がはっきり記憶されてしまっているに違いない。
「この間、キャンパスで見掛けて、ずっとお礼を言おうと思ってたんです。でも、なかなか声を掛けられなくて……ありがとうございましたっ。」
 優里は孝志の予想に反して、ぺこりと頭を下げた。悲観的気分が頂点を極めていた孝志は、一体何を言われているのか分からずにしばしきょとんとして優里を見つめる。
「いつも、お友達と楽しそうに話していらっしゃるのを大学のキャンパスで見ていました。あ、私、同じ大学なんです。文学部仏文科二年の松原優里です。」
 優里は思い出したように自己紹介をしたが、優里のプロフィールなど孝志はとっくの昔に知っていた。
「柳瀬さんの名前は椎名君から聞いていて……椎名君、知ってます? 仏文科の……。」
 優里の言葉に、孝志は慌ててうんうんと頷く。メガネグリーンのことだ。情報の漏洩元がメガネピンクではなくメガネグリーンだったのは些か驚きだが、そんなことはどうでも良かった。
 再び妙な沈黙が落ちる。
「……う、うぅん?」
 不意に背後から聞こえた呻き声に、孝志ははっとして振り向いた。鏑木が意識を取り戻したらしい。
「ゆ、優里ちゃんは……僕の運命のお姫様なんだ。」
 鏑木が優里へそっと手を伸ばす。孝志は優里を背後に隠し、鏑木を睨み付けた。今すぐ蹴り飛ばして黙らせても良いが、それではアヤと同じになってしまう。優里の前で暴力を振るうのはあまり良い作戦ではないように思えた。
「お前、何なんだ? 僕と優里ちゃんの仲を邪魔することは誰にもできないんだー!」
 アスファルトに打ちつけた背中が痛むのか、鏑木は首だけ上げてアスファルトに這いつくばったまま抗議の声を上げる。
「こいつ完全なストーカーだ……。」
 孝志は呟いた。メガネブルーやメガネイエロー、更にはメガネグリーンも決してまともとは言えないが、鏑木の目は明らかに常軌を逸していた。メガネイエローのアニメオタク振りなど可愛らしいものに思える。
 孝志がじっと鏑木を睨み付けていると、不意に背中に気配を感じた。
「え?」
 孝志が振り向くと、優里が孝志の服の裾を掴んでいる。
「あ、ごめんなさいっ。」
 視線が合って、優里が慌てて手を離した。
「い、いや……。」
 あまりにも間近に優里の顔があったことに心臓が跳ねるのを感じながら、孝志は鏑木に向き直る。
「お、お前……僕の優里ちゃんに近づくと許さないぞぉ……。優里ちゃんは僕のものだ。」
 ふっと立ち上がりかけた鏑木の胸元で、何かが光った。孝志がそれをナイフの刃だと認識した時には、鏑木は驚くべきスピードで立ち上がり、ナイフを頭上に掲げていた。横に飛び退いて避けることは容易だろうが、そうすれば後ろの優里に危害が及ぶ。孝志が反射的に右腕を差し出しながら目を閉じた時、キーンと甲高い音が耳を劈いた。
 眩暈を覚えながら孝志が再び目を開いた時、鏑木は孝志の足元でうつ伏せに倒れていた。鏑木の背中にはどんっと複数のスニーカーが載っている。孝志がゆっくりと視線を上げると、鏑木を地面に押し倒し、グラッシーズの面々が笑顔で親指を立てていた。
「リーダー、こいつは俺たちにお任せください!」
 メガネブルーが叫ぶ。声が二重になって聞こえるのは、通信機が声を拾っているからだ。先ほど、耳を劈いたのはグラッシーズの面々が同時にそれぞれの必殺技を叫ぶ声だったらしい。
「さあ、話を続けてください!」
 メガネグリーンが促すが、話を続けろと言われても、何を話したら良いのか分からない。ついに変人集団も現れて、孝志が不安な表情で優里を振り返ると、優里はにこりと孝志に向かって微笑んだ。その微笑が確かに自分へ向けられたものだと言うことを認識して、孝志はカッと全身を熱くする。
「もし、良かったら……。」
 戸惑う孝志に向かって、優里が先に口を開いた。
「今度、一緒にお昼ご飯をご一緒しませんか? お礼に、私が奢りますから……。」
「え?」
 優里の口から出た予想外の言葉に、孝志は思わず聞き返す。
「あ、嫌なら無理にとは言わないんです。彼女さんに怒られちゃいますよね。」
「へ? 彼女?」
「いつも白衣を着ている女の人……よく一緒にいるから、彼女なのかなって。」
 優里の言っている「彼女」がアヤであることに気付いて、孝志は慌てて大きく首を振った。
「違います! あの人は彼女でも何でもなくて、全然そう言うんじゃないです!」
 まかり間違っても、地球上の人間が自分とアヤだけになっても、アヤだけは彼女になんかしたくない。彼女になんてできるはずがない。一下僕として扱き使われるのが関の山だ。
「そうなんですか? そっか……良かった。」
 優里が不意に安堵の表情で微笑み、孝志は瞳を瞬かせて優里を見つめた。
「良かった? 何で?」
 孝志が問い返すと、優里がはっとして顔を赤らめる。
「もう、リーダーは馬鹿だなあ。優里はリーダーのことが好きなんだよぉ。」
 メガネピンクに思い切り肩を叩かれ、孝志はふらりとよろめいた。メガネピンクの一打が強烈だったこともあるが、それ以上にメガネピンクの台詞の意味が孝志の頭を混乱させて、孝志は軽い眩暈を覚えていた。
「そ、そんなまさか……どうして?」
 孝志が優里を見ると、優里は顔を赤らめたまま俯いている。
「感謝してくださいよ、リーダー。リーダーのためを思って、オレが色々リーダーの良いところを彼女に伝えていたんですから。」
 メガネグリーンがにやりと笑って孝志の耳元に囁いた。どうやら孝志の知らないうちにグラッシーズは行動を起こしていたらしい。
「まあ、心の底から感謝することだ。仲間とこの天才科学者神宮寺アヤにな! スペシャル眼鏡がどんなに素晴らしいものかこれでよく分かっただろう!」
 アヤの高笑いが通信機を介して聞こえて来る。今回の恋愛成就――と解釈するのはあながち間違っていないと思う――をスペシャル眼鏡のおかげとするのか、グラッシーズメンバーの裏工作のおかげとするのか、あるいは自身の実力とするのかははっきりしないところだけれど、余計な指摘でアヤの機嫌を損ねると将来が危うい。せっかく得た幸せを失うわけにはいかなかった。
「あの、松原さん……本当に?」
 孝志が問うと、優里は更に深く俯いた。いや、頷いたと言った方が良いのだろう。全身の血液が一気に沸き上がるような感覚を覚えて、孝志は身震いした。
「リーダー、おめでとうございまっす!」
「リーダー、例の件、よろしくお願いします。」
 メガネブルーが祝いの言葉を述べ、メガネイエローがきらきらと瞳を輝かせながらコスプレ依頼を嘆願する。変人集団に囲まれて、喜んで良いのか悲しんで良いのか孝志は大いに複雑な気分だったけれど、何はともあれ、終わり良ければ全て良しなのだ。
「これで眼鏡戦隊グラッシーズは無事に当初の目的を達成し、その効果を証明したというわけだ!」
 アヤが言い、グラッシーズのメンバーがうんうんと頷く。通信機をつけていない優里はきょとんとした表情で首を傾げるが、事情は説明しない方が良さそうだ。特に、監視カメラや盗聴器の話はせっかくの恋愛成就を台無しにする恐れがある。
「そこで!」
 アヤが力強く言った言葉の続きを孝志も待つ。目的を達成したグラッシーズはこれにて解散……となるはずだ。メンバーとも妙な信頼関係を築き、変人ばかりではあるが悪い奴らじゃないことも分かった。アヤの無茶苦茶に付き合わされるのはもうたくさんだが、それはそれで楽しかった記憶もある。少しだけ名残惜しい気持ちがした。
「眼鏡戦隊グラッシーズは世界の平和のために新たなミッションに取り掛かろうと思う!」
「おおー!」
 アヤの声と同時に、グラッシーズの面々は嬉しそうな声を上げるが、孝志だけはがくりと右肩を落としてよろける。予想が外れたこと以上に、これまでアヤと付き合ってきてどうしてこんな当然の成り行きを予想できなかったのだろうかと自分の愚かさを悔やんだ。目的を達成してあっさり解散するはずがない。これはあくまでも第一段階なのだ。
「俺にも可愛い彼女を!」
「キララちゃんの愛をボクの手に!」
「アヤさんを花嫁に!」
「カッコイイ彼氏がほしーい!」
 グラッシーズのメンバーはそれぞれに自らの欲望を叫ぶ。途端、メガネグリーンを高圧電流が襲ったが、アヤは構わず話を続ける。
「諸君にはスペシャル眼鏡の素晴らしさを身をもって体験させてやるから楽しみにするが良い!」
 アヤの笑い声に、メンバーは嬉しそうな声を上げた。電流を食らってちりちりの頭でアスファルトに倒れたメガネグリーンさえも拳を掲げる。彼は今、身をもってスペシャル眼鏡の恐ろしさを実感したに違いないはずだが、それでもアヤへの忠誠心は変わらないらしい。全くもって素晴らしい。孝志は大きくため息を吐いた。
「何だか楽しそうですね。」
 そう笑顔で孝志に声を掛けた優里に、孝志は一抹の不安を覚えつつも何とか笑みを返す。優里が、明らかに命の危険が生じたメガネグリーンを見ても全く危機感を抱かないのは、天然の楽観主義者ゆえか、それともアヤと同じ危険な資質を持っているからか、孝志は前者の可能性を心の底から信じ込むことにした。
 可愛い彼女ができて、これから先には薔薇色のキャンパスライフが待っているに違いない。ちょっと天然なところもまた可愛いのだ。

 数日後、孝志の期待がどのように実現されたかと言うと、まず、ストーカー男の鏑木はアヤの最大限の恩赦で警察に突き出されることを免れ、メンバー用のスペシャル眼鏡とは異なる洗脳ゴーグルと全身黒タイツを着用して例の秘密基地で下僕一号として扱き使われるようになり、メガネブルーは街へ出てナンパを試みて成功を重ねる一方、アヤへの思いを断ち切れずにメガネグリーンと共に二人の仕事を奪った下僕一号をやっかみ、メガネイエローはメガネピンクと意気投合してオタクの聖地でデートを重ね、それぞれそれなりに幸せな日々を送っている。
 孝志と優里の関係がどうなったかと言えば、スペシャル眼鏡で一切合切をアヤに監視されているためままならず、なぜか秘密基地でアヤの発明品に関する説明を聞くという奇妙なデートコースが一般化してしまった。しかし、そんなデートを優里は十分な天然振りを発揮して楽しんでいるから、孝志としても、アヤが説明のためと称して度々孝志を実験台にすることを除けば、特に不満のない日々を送っている。メガネイエローの頼みを仕方なく了承した優里が扮したスーパー巫女キララちゃんも、コスプレに興味がない孝志が素直に可愛いと思える出来だったし、唯一の不満が命に関わる危険なものだということを除けば、現在の孝志の生活は極めて幸せだと言えよう。
 問題は、孝志の寿命があと何年持つのかと言うことだが、それは現時点では不明である。
「今度の発明品は、名付けて『ストーカー撃退! 殺しはしないが半殺しで警察に突き出してやろう防犯ブザー』だ! まだプロトタイプだから動作の保証はできんが、試してみるか、メガネレッド?」
 もしかすると、今日にも孝志の儚い命の灯火は消えてしまうかもしれない。
 頑張れメガネレッド! 負けるなメガネレッド! これを耐え抜けば明るい未来が待っている! ……かどうかは定かではない。

《了》


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