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月影物語

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第二章 絡みし糸 ―― (3)

 階段を上りながら、アズマは身体の中で渦巻く気持ちを持て余していた。どうしてあんなことを言ってしまったのだろうという後悔と、自分の言動を肯定する気持ちとがせめぎ合う。どちらが悪魔の囁きで、どちらが天使の声なのか、アズマには分からなかった。
 雅臣を信用できなくなったわけではない。何があろうと、雅臣は幼馴染みで最も信頼できる親友だ。昨日、雅臣に望への気持ちを言い当てられた時は驚くと同時にほっとした。ずっと不安だった。雅臣と望を取り合うことだけは避けたいと思っていた。もし雅臣が自分も望のことを好きだと言ったら、自分は雅臣には敵わないだろうと覚悟していた。最も信頼し、尊敬している親友だからこそ、ライバルになることが怖かった。望への告白を躊躇い続けた理由の一つは雅臣だった。
 成績優秀で人当たりも良い。きっと自分よりも自慢の親友の方が大切な幼馴染みを幸せにしてくれる。何度もそう思ったし、まさに今、そう思っている。
 体育館裏で二人の姿を見た時、それまでいつも三人一緒だった場所から自分の居場所が消えた気がした。二人が自分から遠く離れて行くような感覚に襲われて、恐怖から自分を守るためには背を向けるしかなかった。手を伸ばした時、拒絶されるのが怖かった。
 弱気な自分を罵っても、立ち向かう勇気は湧いてこない。望が幸せならそれで良かった。相手が雅臣でなくても、例えば宇野だとしても、望が宇野を好きだと言うならそれで良いと思っていた。もし望が自分を好きだと言ってくれたら、その時は誰よりも望を大切にして誰よりも望を幸せにするのだと考えていた。その自信が、体育館裏で抱き合う二人を見た時に消えた。醜い嫉妬とその場から逃げ出して雅臣に当たるしかなかった弱い自分が心底憎い。自分の弱さに気付いた時、失格だと悟った。
 四階まで辿り着いて、アズマはふらふらと壁にもたれる。ひどく気持ちが悪かった。身体の奥で何かが蠢いている。醜く汚れた何かが身体の中にあるような気がした。それを吐き出したいのに、零れるのはただ涙と嗚咽だけだ。
「はーるみっやくんっ。」
 背後から掛かった楽しげな声に、アズマは慌てて涙を拭い、振り向いた。宇野がにこにこと笑みを見せながら階段を上がって来る。
「何の用だよ。」
「用も何も、たまたまお前が通り道にいたからさ。偶然出会ったクラスメートに声を掛けることがそんなに悪いか?」
 宇野はけらけらと笑う。
「でもまあ、用がないわけでもない。美術室に忘れ物だ。」
 宇野が教科書とペンケースを差し出し、アズマは慌ててそれを奪い取った。
「親切に持って来てやったんだから、お礼の一言くらいあっても良いと思うんだけど?」
 アズマが警戒心をあらわに宇野を睨み付けていると、宇野は肩を竦めて笑う。
「ありが……とう。」
 些か屈辱的だが、忘れ物を届けてくれた親切には感謝しなくてはならない。望を追い掛けて慌てて美術室を飛び出し、教科書とペンケースの存在をすっかり忘れていた。
「それで、気は変わったか?」
 宇野は笑いながら尋ねる。何についての話か宇野ははっきりとは言わなかったが、カグヤに関わる話について問われていることは明らかだった。
「お前には……関係ない。」
 アズマは顔を斜め下へ背けながら押し殺した声で答える。
「おーおー、真っ赤な目して可哀相に。」
 宇野はアズマの頬に触れ、強制的にアズマに正面を向かせてアズマの顔を覗き込んだ。
「触るな!」
 アズマが宇野の手を振り払うと、宇野は笑いながら壁に寄る。
「失恋は辛いよなあ。親友にまで裏切られると尚更か。」
 宇野はポケットに両手を突っ込み、壁にもたれながら言った。宇野の口ぶりはまるで雅臣と望のことを知っているかのようだ。
「どうして知ってるんだって?」
 アズマが驚きの表情を見せたことに気が付いたのか、宇野はにやりと笑った。
「俺は前からアイツのずる賢さが嫌いだったんでね。人の好さそうな顔して虎視眈々と機会を窺ってる。そういう奴だよ、内賀雅臣は。」
「違う。雅臣はそんなんじゃない!」
 アズマは反射的に言い返していた。裏切られたわけではない。そう思わなければ、自分自身が壊れてしまいそうな気がした。
「優しいねえ。俺は好きだぜ、そういうお前の純朴さ。」
 壁から離れた宇野がポケットから右手を出し、アズマの右肩をポンッと叩く。
「まあ、元気出せ。女は竹本望だけじゃない。これも幼馴染みの腐れ縁を吹っ切るチャンスだ。竹本望は親友に譲って、お前は大月カグヤとよろしくやれよ。長年の友情を壊したくないなら尚更な。」
 宇野がアズマの耳元に囁くと、先に教室へ向かって歩いて行った。宇野が去った後も、アズマはしばらく階段の前に突っ立っていた。もう涙は零れない。頭の中をぐるぐると巡る考えは宇野の言葉に支配されていた。
 ふと、階段を上がってくる人の気配に気付く。振り返って踊り場を覗き込み、アズマははっと息を呑んだ。雅臣が戸惑いの表情でこちらを見上げている。その後ろには望の姿もあった。
「アズマ……。」
 雅臣が口を開くと同時に、アズマは踵を返して教室へ駆けた。雅臣と冷静に話ができる状態ではなかった。何か話せばまた醜い暴言を吐きそうな気がして、それが何より怖かった。
 教室に戻ると、相変わらずカグヤの周りには人だかりができていた。今回、カグヤを取り囲んでいるのは緩んだ表情の男子生徒ばかりで、その様子を眺める女子生徒の視線は冷ややかだ。
 男子生徒の質問に答えながら笑顔を見せるカグヤの姿は何度見ても普通の可愛らしい女の子で、美術室で感じた禍々しさはどこにもない。白い頬が微かに赤く染まる様は素直に可愛らしいと思えた。
「アズマ……。」
 望と共に教室へ戻って来た雅臣は、真っ直ぐアズマの正面へやって来て声を掛けた。アズマは話したくないと告げる代わりに視線を下へ向けて顔を背ける。
「大事な話がなんだ。しっかり聞いて……。」
「春宮君、ちょっと良いかしら。」
 構わず話を続けようとする雅臣の言葉を遮ったのは、先ほどまで男子生徒に囲まれていたカグヤだった。
「次の英語なんだけど、教科書が前の学校で使っていたのと違うみたいなの。見せてもらえる?」
 カグヤはにこりとアズマに微笑み掛ける。まだ完全にカグヤに対する警戒を解いたわけではなかったけれど、少なくとも今は救われた。
「ああ、良いよ。」
 アズマは雅臣を無視してカグヤに返し、机の中から教科書を取り出す。
「机、寄せても良い?」
 カグヤに問われ、アズマは頷き返すと同時に、自分の机をカグヤの机へ寄せた。
「アズマ……。」
 雅臣はしつこく話し掛けようとするが、三時限目の開始を告げるチャイムが雅臣の声を掻き消した。チャイムと同時に、英語教師が教室へ入ってくる。
「ほら、さっさと席に着けー。」
 教室内に散らばっていた生徒たちががやがやと席へ戻り、雅臣もため息を吐いて席へ戻った。
「今、どの辺やってるの?」
 アズマの教科書を覗き込みながら、カグヤが問う。摺り寄せられた身体にどくんと心臓が跳ねた。身体は熱を帯びるが、不快感は感じない。
「たぶん、二学期はここから……。」
 答えながら、アズマは吸い寄せられるようにカグヤの横顔を見つめた。紅い唇は艶やかな潤いを保っている。
「どうしたの?」
 アズマの視線に気付いたらしいカグヤがきょとんとしてアズマを見上げた。不意に近付いた顔に慌てながら、アズマは左右に首を振る。自分のノートを開いて視線を落とすも、鼓動は速くなるばかりだった。
 三時限目の授業が終わってからも、アズマは話し掛けようとする雅臣を避け続けた。望も時々こちらの様子を窺うように視線を向けてくるが、自ら話し掛けてこようとはしない。
 気まずい雰囲気のまま時は過ぎ、四時限目も終わって昼休み。いつもなら昼食は雅臣や望と一緒に食べるところだが、今日はカグヤに誘われて、カグヤと向かい合わせに机を並べた。雅臣と望に背を向けて、カグヤの周りに集まってきた他の男子生徒と一緒に笑い合う。二人のことが気になりはしたけれど、今はまだ何も考えたくなかった。
「アズマ。」
 昼食を終えると、カグヤを中心に歓談しているところへ雅臣がやってきた。アズマは視線を向けることすらせずにカグヤを見つめたまま話し続ける。カグヤはいつも通りに笑っていたが、周囲の男子生徒が怪訝そうに雅臣を見た。
「話があるんだけど。」
 雅臣の声に、アズマは答えない。心の奥に生じた動揺を隠すためにも、答えを返すわけにはいかなかった。今はまだ怒鳴りつけるか、震える声で答えることしかできそうにない。
「春宮、ちょっと良いかな?」
 突然、肩に感じた重みに、アズマは思わず振り返った。声と共に体重を掛けてきた相手が雅臣だと知っていたら、振り返りはしない。振り返ったアズマに楽しそうな笑みを見せたのは宇野だった。
「悪いけど、僕の方が先にアズマに話があるんだ。」
 雅臣が宇野の手首を掴んで宇野を睨む。
「ああ、そう? でも、春宮はお前と話したくないみたいだぜ。」
 宇野がにやりと雅臣を見て笑い、雅臣は不愉快そうに顔を顰めた。
「春宮、どっちと先に話す?」
 宇野が笑いながらアズマに問い掛ける。アズマがちらりと雅臣に視線を向けると、雅臣は黙ってアズマを見つめていた。不安そうな表情は弱々しく、疲れているようにも見える。
「宇野と話す。」
 アズマは短く答えて席を立った。縋るように伸ばされた雅臣の手を振り払い、アズマは雅臣に背を向ける。
「アズマ。」
 雅臣の声にアズマは振り返ることなく、宇野と共に教室を出た。
「じゃあ、お先に。」
 宇野は馴れ馴れしくアズマの肩に腕を回し、振り返って勝ち誇った笑みを見せる。雅臣はきっと無言で立ち尽くしているのだろう。ひどいことをしているという意識はあった。それでも、顔を合わせれば、口を開けば、もっとひどいことをしそうな自分が怖かった。
 宇野は、アズマの肩に腕を回したままずんずんと廊下を進んでいく。
「どこまで行くんだよ?」
 アズマは苛立ちながら問い掛け、同時に肩に載せられた宇野の腕を振り払った。
「ゆっくり話のできるとこまで。」
 宇野はアズマを促すようにポンッとアズマの背を叩き、アズマより一歩先を歩き始める。そのまま踵を返しても良かったが、教室へ戻って雅臣と顔を合わせるのも嫌だったから、アズマは仕方なく宇野についていった。辿り着いたのは屋上へと続く北階段。校舎の隅にある北階段は利用者も少なく、ひんやりとした空気が漂っている。
「何の用だよ?」
 アズマはぶっきらぼうに尋ねた。雅臣と話したくなくて宇野の誘いを受けたが、決して宇野と話がしたかったわけではない。
「相変わらずつれないねえ。そろそろ気が変わった頃かなあ、と思って、恋愛術を教えてやろうかと。」
 宇野は最上部の水平になった階段の手摺に飛び乗り、腰掛けた。
「余計なお世話だ。そんな話ならこれ以上聞くつもりはない。」
 アズマは宇野を睨み付け、踵を返して階段を下り始める。
「あ、こら! 待てって。」
 慌てて追いかけて来た宇野がアズマの腕を掴んだ。
「大月カグヤ、可愛いと思うだろ?」
 宇野はアズマを引き寄せ、耳元に囁く。低く抑えられた声は突き刺すように全身へ響き、アズマはぴたりと動きを止めた。宇野の言う通り、確かにカグヤは可愛い。美術室でのあの禍々しい空気がなければ、好意を抱かれて嫌な相手ではなかった。
「もう一度キスされたいんじゃないか?」
 宇野の言葉に心臓が跳ねる。授業中、間近に見た艶やかな唇が脳裏に浮かんだ。教室で改めてカグヤを見た時、カグヤに惹かれる気持ちを抱いたのは事実だ。まるで宇野に心の中を読まれているようだ。身体に凍みるような冷たい空気に囚われて、アズマは何者に対してか分からない畏怖を感じた。
「好きなんだろ? 大月カグヤにキスされて気持ち良かったんじゃないの?」
 宇野の声が明るく変わり、同時に身体の奥底にあの時の嫌悪感が甦る。息苦しさと吐き気がアズマを襲った。
「あんなの……二度と御免だ。」
 アズマがやっとの思いで声を絞り出すと、宇野は呆れたように息を吐いた。
「良く言うねえ、腰砕けになるほど良い思いしておきながら。」
「良い思いなんかじゃない。気持ち……悪かった。」
 アズマがぽつりと呟くと、宇野は何かに反応するかのように素早く瞬きをし、それから少し考え込むように視線を彷徨わせた。
「じゃあ、どう気持ち悪かったわけ?」
 宇野はアズマを舐めるように眺めてからにやりと笑い、再び馴れ馴れしくアズマの肩に手を回す。
「どうって……。」
「話して楽になれよ。なあ、春宮アズマ?」
 宇野は自分のネクタイを緩める一方で、アズマの首に回した腕に力を込める。
「……っ。」
 首を絞められて、アズマは慌てて宇野の腕を叩いた。
「ああ、悪い。締め過ぎたか。」
 宇野が笑いながら力を緩める。アズマは宇野の腕を振り払って宇野から逃れると、階段の手摺に寄り掛かって咳き込むように息を吸い込んだ。
「お前、殺す気か!?」
 アズマは呼吸が落ち着くと、宇野を睨み付けて叫ぶ。宇野には自転車で追突してきた前科もあった。ついうっかりで窒息死させられてはたまらない。
「だから悪かったって。俺もお前に死なれちゃ困るんだ。殺す気なんてねえよ。」
 宇野はけらけらと声を上げて笑う。アズマは宇野を睨み付けながらも諦めたようにため息を吐いた。あっけらかんと笑う宇野に毒素を抜かれ、アズマはそれ以上文句を口にする気にもならない。それまでの緊張した空気がいつの間にか和らいでいることに気付いて、アズマは不思議な感覚に囚われた。
「で、どう気持ち悪かったんだ?」
 宇野は人懐っこい笑みをアズマへ向ける。
「何か息苦しくて、吐き気がして……とにかく気持ち悪かったんだ。」
 自然と言葉が零れていた。元々、誰かに話したいという気持ちはあった。思いもかけない事態にどうしたら良いか分からなくて、誰かに相談したかった。まさかその相手が宇野になるとは思いもしなかったけれど……。
「息苦しくて吐き気がして……ねえ。」
 宇野は面白くなさそうに左手で右肘を押さえながら、右の指先で頬を掻く。
「身体中が熱くて眩暈もした。」
 一度話し出してしまうと、それから先を続けるのに躊躇いはなかった。
「なるほど。それで意識が朦朧となって為すがままってわけか。」
 宇野は口元に手をやりながらくつくつと笑う。
「な、何だよ、俺は……。」
 アズマはむっとして宇野を睨み付けた。あの時、アズマがどれほどの恐怖を覚えていたか宇野は全く分かっていない。もし宇野が分かっていたら、それはそれで心の中を読まれたようで不愉快だが、面白おかしく笑われると腹が立った。
「いや、もう、何て言うか本当に……。」
 宇野は段々を顔を綻ばせ、終いには腹を抱えながら声を上げて笑い始める。アズマには一体何がそこまで面白いのか分からず、苛立ちよりも不思議さが強くなって首を傾げた。
「いつまで笑ってんだよ。」
 一向に笑いの止まらない宇野へ冷ややかな声を浴びせると、宇野はやっと顔を上げる。
「お前があまりにも阿呆過ぎてな。さすがにここまでひどいと笑うしかない。」
「どういう意味だよ?」
 アズマが聞き返すと、宇野はにやりと笑みを見せた。
「お前は大月カグヤに惚れてるんだ。」
 宇野は真っ直ぐアズマを指差して言う。自信満々の断定だった。
「な、何でそうなるんだ?」
 アズマが思わず後じさると、宇野は腕を組んでゆっくりと語り出す。
「恋をするとなあ、息もできないほど苦しくなるもんなんだよ。緊張で身体は強張る。好きな女の子にいきなりキスを迫られたら誰だって赤くなる。熱出してぶっ倒れる阿呆もいる。まあ、そういうことだ。大月カグヤを異性として意識してるからそうなるんだよ。」
「でも、俺は気持ち悪くて……。」
「ああ、分かってないなあ。恋愛なんてのはジェットコースターとかホラー映画みたいなもんなんだよ。怖いけど乗りたい、怖いけど観たいってな。その怖さが快感なわけだ。慣れだよ、慣れ。慣れればああいう感覚が気持ち良くなるんだ。その辺が分からないってのは、本当にまだまだお子様だなあ、春宮は。」
 宇野は一人納得した様子で語り、アズマの頭を撫でた。アズマは不満そうに宇野を睨み付けるが、宇野は自論を譲らない。
「お前、竹本望と一緒の時もそんな風に感じるか?」
 宇野はにやりと笑いながらアズマに顔を近づけてきた。
「望と一緒の時はそんなことなかったよ。望と一緒だとほっとするんだ。だから俺は……。」
 ふと脳裏に望の姿が甦り、同時に体育館裏での雅臣と望の姿も脳裏を掠める。
「ほっとする……ね。そう言うのが大きな勘違いなんだよなあ。」
 宇野は一度空を仰ぎ、大袈裟に息を吐いた。
「どういうことだよ。」
「ほっとするって言うのはさ、別に女と一緒じゃなくても良いわけ。縁側でお茶飲みながらで十分なんだよ。女として意識してたら一緒にいてほっとなんかしないんだよ。女じゃねえからほっとすんの。つまり、お前が竹本望と一緒にいてほっとするってのは、お前は竹本望を女として見てはいない、ただの幼馴染みに過ぎないってことだ。」
 宇野はにやりと笑ってアズマの胸を拳で突き、よろけたアズマは慌てて階段の手摺を掴む。
「まあ、良かったじゃないか。お前が本当に好きなのは大月カグヤで竹本望じゃない。竹本望は内賀の奴にやってお前は大月カグヤとよろしくやればいいわけだ。ほれ、やっぱり俺の言う通りだったろう?」
 宇野は嬉しそうにアズマの肩に手を置いた。心の中にはまだ小さな違和感が残っていたけれど、宇野の言う通りに自分が好きなのはカグヤであって望ではないのだと思うと、憂鬱だった心が少し軽くなったような気がした。

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